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紙袋を受け取ったスペンサーは、まるで手品のように中身のパンを食べ尽す。
「ほはへはっはひいいはふはは」
口にパンを詰めたまま、彼はさらなる誠意を示したようだが、何を言ってるかわからない。
「食べてる途中で喋らないでよ」
呆れた表情でそう返し、ジェシーはキャリーバッグを閉じて肩をすくめた。
「ゴクン」
「ちゃんと噛みなさいよ」
彼女に言われた瞬間に、スペンサーは口の中のものを胃へ移動させた。
まだまだ固形物だったハズだが、喉に詰まらせた様子はない。
「ゲップ……」
「マナーって知ってる?」
何を言われようが、彼は気にしない。
ジェシーの脳裏には聞き込みの際、町民が言っていた情報の数々が一気にフラッシュバックした。
「いやぁ~、死ぬかと思ったぜ。感謝感謝」
軽く腹部を叩き、彼は初めてジェシーに笑顔を見せた。
「あんた、嫌われ者よね? その理由がわかった気がするわ」
「ところで、連邦捜査官が俺に何用だよ? つーか、連邦捜査官てなんだ?」
ボサボサの金髪を掻き乱しながら、スペンサーは強引に話題を変えてごまかす。
「……連邦捜査官は連邦捜査官よ」
彼の質問に、ジェシーはそれだけしか答えを返さない。
彼女は少し真剣な表情を浮かべていた。
目の前にいる男は、一見ただの変人だが、どこか鋭い。
注意して見れば見るほど、ただ者ではない雰囲気を纏っていることがわかる。
「なんだよ怪しいな。連邦捜査官なんざ、この国のシステムには組み込まれてねぇぞ?」
「ま、確かにあたしはこの国の人間じゃないわ。それも詳しく話すから、あなたの“店”に案内してくれるかしら?」
「“店”?」
スペンサーはそう聞いて、ジェシーに対する態度をかえる。
「そう。あたしは“客”よ? “探し屋”さん」
そしてその言葉に、彼は再び笑顔を見せた。
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