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空に昇った太陽が、分厚い雲の陰に埋もれて姿を隠した。
それでも、下に広がる景色は薄暗くならない。
この場所に集められたあらゆる建物から、キラキラと美しく、時には不快なネオンの輝きが放たれているからだ。
巨大な噴水。
技術の進歩を見せつけるかのように建ち並ぶ、超高層ビル。
人々は七色に彩られたその場所を練り歩き、決して笑顔を絶やさない。
耳に心地良い音楽。
時には激しいリズムに切り替わり、耳を刺激するが、同時に胸を弾ませる。
その中で鳴り終わらない、無数の硬貨がぶつかり合う音。
ここは無法国家にして娯楽の国。
先進国にして、住人のいない国。
ルックスランド首都、ルックスシティ。
大都市の全てがカジノと化した街。
人が住む家はない。
徘徊する全ての人々が、この国の観光者。
すなわち、客だ。
人々は皆、ホテルに住んでいる。
戸籍は存在しない。
パスポートさえあれば、自由に出入り可能な魅惑の街。
その中心には、レンバードタワーという建物がそびえ建っている。
これはこの国で一番に高いビル。
カジノ都市の中心にして、最大の観光名所だ。
その最上階である80階に、一人の男が連れられてきた。
数人の大男に引きずられるようにして、不本意ながらも抵抗することを許されず、両手を鎖で縛られ、運ばれてくる。
そして扉を開けば、都市を一望できる大きな部屋。
巨大なショーウィンドーが壁の一部となっており、その前で一人の男が椅子に腰かけ、外の景色を堪能している。
「連れてきました」
大男の一人が、縛られた彼を高級な絨毯の敷かれた床に投げ捨てた。
「ご苦労」
言葉を返したのは、椅子に座って背を向ける男ではなく、その隣に居た金髪の、これまた大男。
ここは無法国家を仕切る男が住む場所。
レンバードタワーカジノ社長室。
そこへ強引に連れてこられた男は、今にも泣きそうな顔でうつ伏せになり、脅えていた。
「イカサマです。数人のグループで店に入り、荒らしていました。逃げた奴は撃ち殺し、残ったのは一人だけです」
大男達の報告を聞いても、椅子に座る男は振り向かない。
代わりに、隣に立つ金髪の大男が受け答えを行う。
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