その男、探し屋

10/16
前へ
/517ページ
次へ
トニー・バストエール。 スペンサーと共に探し屋をする、屈指の切れ者。 黒髪のオールバックに、高い身長。上下、迷彩服を着用した変人。だが、実力はかなりのもの。 しかし、ジェシーの前にいるのは黒いパーカーに青いジーンズを着て、うつ伏せに倒れる男の姿。 調べた情報が間違っていたのかと、彼女は頭を抱えてキャリーバックをビニールシートで覆われた壁にもたれかける。 何度も脳裏で確認するが、二人は有名な戦士のハズなのだ。 裏の世界では超有名。 ある“組織”と対立した、数少ない人物達だ。 「おいトニー、起きろ」 スペンサーは倒れた男の頭を足でつつき、呼びかける。 すると、トニーと呼ばれた男が顔をあげ、寝惚けた面を見せた。 黒のサングラスは、歪んだ状態で顔にかかっている。 それを右手で外し、茶碗を捨ててゆっくりと立ち上がった。 「聞いてくれよスペンサー、鯨祭で食い物をもらったけどよ、少な過ぎるぜ。詐欺だよ詐欺」 「お前が大食いなだけだ。ていうかてめぇ、俺が留置されてる間に一人でタダ飯食ってたのか?」 「仕方ねぇだろ? お前を釈放する金がどこにあるってんだよ?」 「うるせぇ、相棒ならなんとかしろ」 「そこまで!」 二人の言い争いが始まった矢先、慌ててジェシーが止めに入る。 そこで、スペンサーは彼女に視線を移した。 「そういえば客が来てる。ジェシー・ルークラバードさんだ」 そして隣にいるトニーに紹介。 「……トニーっす。よろしく」 まだ寝惚けているようだが、彼もまた彼女へ視線を向けてきた。 「よろしく。っていうか悪いんだけど、早く仕事の話をしない? あんた達に付き合ってると、日が暮れそうだわ」 ジェシーは言いながら、自分で椅子に腰かけた。 「客か……?」 「ああ、客だ」 トニーのつぶやきにスペンサーが返した後、二人も椅子に腰を下ろす。 仕事の話。 それはつまり、何を探して欲しいか。 依頼を聞き、承ることだ。
/517ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20167人が本棚に入れています
本棚に追加