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トニー・バストエール。
スペンサーと共に探し屋をする、屈指の切れ者。
黒髪のオールバックに、高い身長。上下、迷彩服を着用した変人。だが、実力はかなりのもの。
しかし、ジェシーの前にいるのは黒いパーカーに青いジーンズを着て、うつ伏せに倒れる男の姿。
調べた情報が間違っていたのかと、彼女は頭を抱えてキャリーバックをビニールシートで覆われた壁にもたれかける。
何度も脳裏で確認するが、二人は有名な戦士のハズなのだ。
裏の世界では超有名。
ある“組織”と対立した、数少ない人物達だ。
「おいトニー、起きろ」
スペンサーは倒れた男の頭を足でつつき、呼びかける。
すると、トニーと呼ばれた男が顔をあげ、寝惚けた面を見せた。
黒のサングラスは、歪んだ状態で顔にかかっている。
それを右手で外し、茶碗を捨ててゆっくりと立ち上がった。
「聞いてくれよスペンサー、鯨祭で食い物をもらったけどよ、少な過ぎるぜ。詐欺だよ詐欺」
「お前が大食いなだけだ。ていうかてめぇ、俺が留置されてる間に一人でタダ飯食ってたのか?」
「仕方ねぇだろ? お前を釈放する金がどこにあるってんだよ?」
「うるせぇ、相棒ならなんとかしろ」
「そこまで!」
二人の言い争いが始まった矢先、慌ててジェシーが止めに入る。
そこで、スペンサーは彼女に視線を移した。
「そういえば客が来てる。ジェシー・ルークラバードさんだ」
そして隣にいるトニーに紹介。
「……トニーっす。よろしく」
まだ寝惚けているようだが、彼もまた彼女へ視線を向けてきた。
「よろしく。っていうか悪いんだけど、早く仕事の話をしない? あんた達に付き合ってると、日が暮れそうだわ」
ジェシーは言いながら、自分で椅子に腰かけた。
「客か……?」
「ああ、客だ」
トニーのつぶやきにスペンサーが返した後、二人も椅子に腰を下ろす。
仕事の話。
それはつまり、何を探して欲しいか。
依頼を聞き、承ることだ。
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