その男、探し屋

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「客が来るのは久々だな~」 ジェシーが口を開く前に、トニーはそんなつぶやきをあげる。 「このところ、不景気が続いたからな~。やっと仕事できると思ったら、泣けてくるな」 「だから、それはあんた達だけよ」 いい加減ジェシーは、二人の会話に苛立ちを覚え始めた。 しかし、グッと堪え、震えた声で話を進める。 だが、 「確かに鯨祭は盛り上がったけどよ。もう少し、配る食料を増やして欲しいわけよ」 「知るか。俺は興味ねぇし、鯨なんか食わん。留置所で空気吸ってた」 「ま、俺は何人か騙して多めにもらったけどな。特技披露だ」 「やめとけよ詐欺師。その女は連邦捜査官だぞ?」 「へ? マジで?」 スペンサーの相棒、トニーは探し屋だけでなく、詐欺師の顔を持っている。 それを堂々と、連邦捜査官がいる場で自慢げに話したのだから、動揺するのも無理はないだろう。 しかし、ジェシーからすればそんなことはどうでもよかった。 なぜなら、 「いい加減、仕事の話をしましょうか。それに、あたしは連邦捜査官じゃないし……あんたを出す為の口実よ」 彼女もまた、警察を相手に詐欺行為を行っていた。 その事実に驚きを見せる二人は、顔を見合わせて同時に首をかしげる。 「あたしも一応、裏の人間なの。あんた達に仕事を頼むのは、そういった事情があるからよ」 笑顔で言うジェシーに、二人は同時に視線を戻す。 「よし、まずは依頼を聞こう」 「……だな」 そしてビジネスの話に話題を変えたので、ジェシーは安堵のため息をつき、ようやく本題に入る。 キャリーバッグから取り出した一冊の本を、見えるように机上へ置いた。
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