その男、探し屋

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それをスペンサーが取ろうとすると、ジェシーは自分の方へ引き寄せて阻止してくる。 「初めに、あんた達の情報について知りたいんだけど」 ボロ屋内の空気は、いつの間にか真剣なものに変わっていた。 ジェシーからすれば、やっとかと思ってこの空気が心地よく感じる。 「俺達の情報?」 「そう。あたしも馬鹿じゃないから、事前に調べてきたの。でも実物を見る限り、噂される実績がある人間とは思えないのよ」 眉を潜めるスペンサーに、彼女は挑発的な口調で言葉を投げる。 「“斬巣の湖”を見つけたって噂は本当?」 入る者を斬り刻み、赤く染まった湖があると。 そういう伝説がある地域に広まっており、二人がそれを見つけたという噂もある。 「赤い湖か。確かに見つけたが、水を持ち出す方法はなかった。触れば斬られるからな。別名“鋭利な水”って呼ばれる、秘宝のひとつだ」 「場所が知りてぇなら教えてやるぜ?」 「いえ、いいわ」 どうやら、噂は本当のようだと、ジェシーは少し安心する。 「他にもいろいろ見つけたんでしょ? “緑の舌”や“紙の化石”、“地上に堕ちた神の都”……」 「まぁな。持ち出せた物は“倉庫”に入れた。危険だからな」 スペンサーの言う“倉庫”とは、北の大陸にある“秘宝保管所”のことだ。 そこでは呪われた秘宝や遺物を無数に保管し、取り調べが行われる。 一般的には軍事科学施設とされているが、真実を知る、いわば裏の人間には“倉庫”と呼ばれており、そこへ物を提供した者には莫大な報酬金が支払われる。 “闇の取引き”も行われている場所で、秘宝のランクによって支払われる金額が違う。 「昔の話だ。最近は簡単な仕事しかこねぇし、人探しや猫探し、犬探しばかりだ」 「だから一文無しなのね。依頼金はいくらなの?」 ジェシーがそう尋ねると、動いたのはトニー。 懐からそろばんを取り出し、何やら計算を始める。 「“伝説の秘宝コース”なら、ブツのランクと難易度で金額が代わる。金はあんのか?」 「もちろん」 ジェシーは言葉を返すと、抱えた本をスペンサーに手渡す。 今回の依頼。 それは、本の中に記されていた。
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