ルックスランド地下街

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「やっちゃいけないこと? ここは無法国家だぜ?」 対するトニーは、スタントマンの立ち振る舞いや口調から、彼が自分達に敵意を示していないことを悟る。 凶悪な犯罪者として有名な男に変わりはないが、他のテロリスト達と比べると思ったよりまともなようだ。 「い~くら無法国家でも、越えちゃいけねぇ一線ってのはあるだろ? 奴らはそれを無視してビジネスをやり始めた、自国で好きにやるのぁ勝手だが、こっちにも被害が来たんでね~」 肩をすくめ、言葉を返してくるスタントマンは、どうやらM・クラフトを敵視しているらしい。 ライスはまだ警戒を解かないが、ここで彼と戦闘になる可能性は少なそうだ。 「早い話、何が目的で地下街に入ったんだ?」 「だから言ったろぉ? 調査だよ調査。暴走してるこの国のビジネスに喝を入れに来たんだよ~」 「つまりはなんだ? この国は何をしてる?」 話が見えないことに苛立ちを感じて、トニーはそろそろ核心に迫る。 すると、 「偽札さぁ」 スタントマンから、驚きの答えが返ってきた。 「偽札だって? そんな噂は聞いたことないぞ?」 ライスは再び会話に参加し、詳しい情報を聞き出す。 情報屋を営む彼でも、偽札に関する話題は聞いたことがない。 しかし、スタントマンはすでにその被害を受けているという。 「ついこの前だっけどもな、ある国の商業団体の金庫をいただいたんだが、中身はぜ~んぶ偽札だったんだ。この国相手に商売してる連中だぜ?」 「でもよ、偽札ぐらいすぐ見抜けるだろ?」 「ところがこれまた精巧な造りだこと! 俺も気づくのにゃ数日かかっちまった」 世界共通通貨であるG(ガーマ)は、偽札を造ることが困難になっている。 今や印刷の技術はかなりの進歩を遂げ、絵柄など楽にコピー可能だが、紙幣に使われている紙は決して市場に出回らない。 各国の造幣局だけが取り扱うことを許され、裏で経済を操る“秘密結社”さえも、そこは暗黙の了解として手は出さなかった。 しかし今、この国でそれが行われているというのだ。 「なるほど、道理で世界に散ってるハズの有名人達がこの国に集まってるわけだ」 ライスが抱いていた疑問は解消された。 そしてその事実を証明し、他国に流せばM・クラフトを無力化できる。 「へぇ、いいこと聞いたな」 トニーは舌を出して微笑むと、何か企み始めたようだ。
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