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誰かの訪問を伝える音が、広い屋敷内に鳴り響く。
やはり白を基調としたレンガの建物。
スペンサーのボロ屋とは、比にならない。
「留守ならいいのに」
トニーがそうつぶやくと、スペンサーは再びベルを鳴らす。
それから少しして、内部から操作されたのか、屋敷に入る為の門が開いた。
つまりこれは当然、入れとの合図だ。
その瞬間、二人は落胆の表情を浮かべる。
そして、スペンサーは両腰に装着した黄金に煌めく二丁の銃を出し、トニーは両腕にはめた紫色の篭手で拳を作り、敷地内へ足を踏み入れる。
(なんでそんなに警戒してんのよ……?)
そんな二人を後方から眺めているジェシーは、ため息をついて彼らの後に続く。
スペンサーとトニー。
この二人と行動を共にしていると、全ての幸せを口から放出してしまいそうだ。
「クリア」
「クリア」
二丁の銃を構えるスペンサーの声に、トニーが返す。
まるで敵のアジトに潜入でもしているかのような緊張感。
ジェシーは何度も心の中で確認するが、目の前の屋敷は彼らの知り合いの自宅。
それだけのハズだ。
「よし、これから内部に入るぞ。警戒しろ」
「了解」
今度はトニーが、屋敷に入る為の玄関扉に軽く触れる。
紫色の篭手の素材は金属じゃないらしく、扉に触っても音をたてない。
ジェシーはあの武器が何かを知っていた。
スペンサーが持つ黄金の二丁拳銃然り、裏の世界では有名なものなのだ。
スペンサーが持っているのは、“炎の二丁拳銃”と呼ばれる武器。
アイム&アミィという愛称を持つ、彼のメインウエポンだ。
対するトニーの篭手は、“紫電の手袋”と呼ばれる武器。
愛称はないが、掌の中央に埋め込まれた宝石は、Bクラスの価値がある秘宝のひとつだ。
それらを持ち出し、装着して構えるほど、屋敷の中にいる人物は危険なのか。
否、それは二人にとってであって、ジェシーには関係がない。
彼女はそう願いながらも、扉を開けるトニーの側へ歩いていく。
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