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しかし、トニーは機を逃した。
鎖ののれんは再び垂れ下がってしまい(普通に触れるが)、彼だけ入ることができない。
「ちょっと待ってくれ!」
無視して進もうとした二人の“悪意”を感じとったのか、彼は悲痛な叫び声をあげて助けを求める。
「……面倒くさいわね」
ジェシーは眉間にしわを寄せてそうつぶやくと、再び鎖ののれんに近づく。
だが、それをスペンサーが阻止した。
薄暗い屋敷内の廊下。
彼女の前に立ちはだかる彼の表情は、真剣そのもの。
「やめとけ。もう一回触ったら、よくないことが起きるぜ?」
鎖の隙間から漏れた日差しが、ボサボサの金髪に反射する。
この長い廊下の先は見えない。
だが、ジェシーは恐怖など少しも感じていなかった。
二人が何を怖がっているか知らないが、彼女は関係ない。
屋敷に入って思ったことといえば、使用人はいないのかくらいだ。
「じゃあ、どうするのよ?」
至って真面目? なスペンサーに、ジェシーは腕を組んで質問を投げかける。
「破壊するから下がってろ」
そう言って、彼は右手に持つ黄金の銃“アイム”の安全装置を外し、自分も廊下の奥へと移動した。
彼の持つ“アイム&アミィ”は、凄まじい威力を誇る業火を放つと言われている。
それを思い出し、ジェシーも指示に従ってとりあえずのれんから離れた。
「トニー、今から鎖を壊す。離れてろ」
のれんの向こう側でパニくる相棒にそう呼びかけ、引き金に指をかけた。
そして狙いを定め、黄金に煌めく銃口を天井付近へ向ける。
が、そこで事態は急変した。
「……ん?」
左足首に違和感を覚え、ふと下を見るスペンサー。
すると、太く強靭な鎖がそこに巻きつき、屋敷の廊下の奥、暗がりの方へ伸びていた。
次の瞬間には、
「ぎゃああああああ!」
強く引かれてバランスを失い、うつ伏せに倒れた状態で廊下の奥に引きずられて行った。
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