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扉の向こうには、高級感溢れる広間があった。
中央で螺旋状に渦巻く階段や、天井に吊り下がるいくつものシャンデリア。
床にはピカピカの赤い絨毯が敷かれ、壁際などに置いてある家具も高そうだ。
例えるなら、ダンスホール。
百人単位をここに呼び寄せ、舞踏会やパーティーができる。
しかし、この場に足を踏み入れたトニーとジェシーの目に、それらは映っていなかった。
否、それらはもはや、気にもならない。
なぜなら、天井から無数に吊り下がる鎖のひとつに、顔見知りの男が逆向きで吊されていたからだ。
もちろん、それは先程に連れ去られたスペンサー。
脱力しているのか、両腕は下向きに垂れ下がり、所持していた黄金の二丁拳銃は床に落ちている。
脳天と床の間は、1メートルほど。
そしてその近くには、一人の女性が木の棚の上で足を組み、座っていた。
茶髪のショートカット。毛先だけが黒く、それらは外に向けて綺麗にはねている。
白いブラウスを着て、青と紺の縦縞コートを羽織り、黒の長ズボン。
手には黒光りする拳銃を持ち、もう片方の手に握っているのは黒い鉄製の櫛(くし)。
彼女の姿を見た瞬間、トニーは石のように固まってしまった。
その背後に立つジェシーも、息を呑んで女性を見つめている。
「久しぶりね、トニー。あんた、何か私に言うことがあるんじゃない?」
そう言い放つ女性の口調は、不機嫌そのもの。
表情こそ笑顔だが、トニーには思い当たることがあり過ぎて、脳内は少しのパニック状態だ。
その笑顔も、ジェシーでさえ作り笑いとわかるほど、顔面の筋肉組織を強引に使用したものだ。
「ひ、久しぶり……会いたかったよ」
トニーはパニックのまま、とっさに出た言葉を女性に向けて返す。
だが、すぐに後悔した。
「よく私の屋敷に来れたわね」
女性から笑顔が消え、不穏な空気が流れ始める。
そして、
「ぎゃああああああ!」
トニーの悲鳴が、広間に響き渡った。
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