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ジェシーはスペンサーの不幸など気にせず、彼の口から出た名前に注目していた。
どこかで聞いた名前。
おそらくそれは、またしてもスペンサーという人間に関わる人物の名だ。
そしてその彼がエターナル・エントランスを探していたのなら、話は早いハズ。
だが、
「あいつが秘宝の情報を持ってても、聞きにはいけねぇな」
逆向きのトニーの口から、そんな言葉が飛び出す。
「そうね。知りたいなら私の知ってることを話すけど、レイドの持つ情報の方が明確ね」
リンジーも、彼の言葉と同じようなことを言う。
ジェシーには、それが理解できなかった。
その彼が同じ秘宝を探していたのなら、聞いた方が早いに決まっている。
「どういうこと?」
ジェシーはたまらず、リンジーに向けて胸の内に巣食った質問を吐き出す。
「レイドは……まぁ、私達の“知り合い”なんだけどね……」
「俺達の“知り合いシリーズ”は酷いぜ? その女を見ろよ!」
上からスペンサーの罵声が聞こえ、リンジーが彼を縛る鎖を大きく揺らす。
振り子のように、何度も何度も。
「何者なの?」
「“テロリスト”だ。生物学者まがいの危険人物で、この国は違うが、いろんな大陸で指名手配されてる。今はどこにいるかわかんねぇよ」
トニーから情報を聞き、ジェシーの中で繋がった。
「レイドって、レイド・フッズエールのこと? あの野蛮な殺人鬼?」
「ああ」
「そうよ」
何かを思い出したような表情で質問するジェシーに、二人の答えが同時に重なる。
有名なバイオテロリスト。
彼は今、どこかの国で何かを企んでいる。
情報をもらうのは、不可能に近いだろう。
「結局、エターナル・エントランスは諦めたらしい。何があったかは知らねぇが」
トニーが言うと、ジェシーは深くため息をついた。
彼が言った“知り合いシリーズ”。
彼女はそれを、自分で調べて知っていた。
“テロリスト”、“武器商人”、“詐欺師”、“海賊”、“暴力保安官”、“泥棒”。
スペンサーの周りは、危険がいっぱいだ。
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