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「とりあえず、ルックスランドに行くならチケットがいるぜ? 飛行機でも船でもいいが、俺は豪華客船に乗りたい。あそこは有名な観光地だし、いい旅ができそうだ」
壊れた椅子を見て呆然とするスペンサーをよそに、トニーは紫の篭手を外しながら提案を持ちかける。
「チケット代はあたしが払うんでしょ? だったら飛行機がいいわ。船だと時間もかかるし、あの大陸付近の海は何かと危ないしね」
ジェシーはその提案に反対。
彼らが目指すルックスランドがある大陸は、こことかなりの距離がある。
それに、フィニムール大陸の近海は危険なのだ。
あの辺りには“海賊”が出るという噂があり、何年か前に豪華客船が沈められたという前歴もある。
最近は姿を見せないようだが、大陸に着く前にあまり危険は犯したくない。
だが、
「いいか? 俺は高い所が大っ嫌いだ。飛行機なんかで行く気はない。飛行機なんて消えてしまえばいいのに」
トニーは彼女を指差し、真面目な顔で言い放つ。
「知らないわよ。豪華客船ってツアーでしょ? 時間がかかるじゃない」
「知らないとはなんだ!? 高所恐怖症舐めんなよ? チビったらどうする!」
「どうもしないわよ! その時はあたしに近づかないでちょうだい」
「白々しい小娘め!」
「うるさいわね、男のクセに」
二人が口論をしている間、スペンサーは椅子の破片を拾い集めていた。
「マジかマジかマジかマジかマジか……」
小さな声でつぶやきながら、集めた破片を屋内の隅へ寄せる。
そして両手を合わせ、静かに黙祷していた。
そんな中、口論には決着が訪れそうだった。
「よし、わかった! こういう時はコインで決めよう! 表が出たら船だからな」
「望むところよ!」
トニーが小さな硬貨を取り出し、指で弾いて手の甲に乗せる。
そして上から被せたもう片方の手をどけると、コインには表を表す∞のマークがあった。
「よっしゃあ! 表だぜ!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
ガッツポーズをとるトニーからコインを取り上げ、ジェシーはじっくりと観察する。
表には∞のマーク。しかし裏返しても、同じ∞のマークが刻まれている。
「何よ、どっちも表のコインじゃない! こんなのイカサマだわ!」
「俺は詐欺師だ! 文句言うなぁ!」
この口論に、決着は訪れなかった。
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