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だが、スペンサーの手にも今までになかったものが握られている。
穴の空いた左肩から滴る血の先。そこには、黒く輝く菱形の首飾り。透明な硝子の中に、煌めきの原因である結晶が閉じ込められている。
それに気づいたM・クラフトは、再び薄ら笑いを浮かべて苦笑を漏らし、仕込み杖を地面に突き立てて体勢を保持する。
「……なるほど、刺された瞬間に」
あいている手で懐を確認し、つぶやく。
「なぜ場所がわかったのか聞きたい」
「……答える義理はねぇな」
「そうか。だが互いに望みのものを得た……これ以上争うのはやめにしないか? 今から歴史の紐が解かれるのだ」
発言を聴き終える前に、スペンサーは迷いなく発砲。
七色のサイコロを狙っての銃撃だったが、それは硝子製の無情な刃に弾かれた。
「悪いが、ろくでもない女の遺言を預かってんだ。てめぇの好きにはさせねぇよ」
“火達磨胡桃”は残り三発。慎重に使わねば、M・クラフトを倒すことはできない。
「貴様が女の無念を汲む人間だったとはな。騙された挙げ句にこんな場所に連れてこられ、相棒を死なせたうえに肩を刺されても、まだあんな女の肩を持つのか?」
「お前が気に食わねぇだけだ」
左腕が動くことを確認し、首飾りを首に下げて銃に新たな弾を込める。
鉛の銃弾も残りは少ない。どう考えても状況は不利でしかないが、スペンサーは勝つ気でいた。
そのことを感じとったM・クラフトは、
「……いい加減に、自分の立場を理解したらどうなんだ?」
言葉に哀れみと皮肉を乗せて、スペンサーに投げ放つ。
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