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だが、
「下らん詭弁もここまでだ」
意を決して地を駆けてくるスペンサーに対し、M・クラフトは不満げな顔で黒い笛を鳴らす。
その音色は今までとは違い、重苦しく長い。
「砂旋譜面・塞断奏(さいだんそう)」
次の瞬間には場にある全ての砂が、粉塵の如く巻き上がって二人の視界を塞ぐ。
が、それは瞬く間に姿を変え、二人の間に立ちはだかる壁となってスペンサーの行く手を阻んだ。
「くッ……!」
なんとか勢いを殺して踏みとどまり、眼前にある砂の層(かべ)を睨む。
激しく流動する砂は鉛の弾を容易に弾き、または呑み込んで削り潰すほどの破壊力がある。
「“ウヴァルの角笛”。遥か昔に滅んだ都市にいたとされる、伝説の駱駝(らくだ)……その額に生える角だ」
砂の向こうから、M・クラフトの声が聞こえる。声色からして、ご機嫌な様子だ。
「その駱駝は角を振り上げて砂嵐を起こし、都市に迫る脅威を追い払っていたという。その脅威が何だったのかは、今も謎に包まれたままだがね」
次第に声は離れていった。片足で上手く移動しているのだろうが、砂に隠れて姿は見えない。
しかし、スペンサーはすぐに理解した。
自らの宝具の説明を今更ながら長々と喋る理由も、その狙いも。
「ッ……しまった!」
不死の力を呼び覚ます祭壇が、M・クラフトと共に層の向こう側にあるのだ。
「歴史的瞬間の邪魔はさせん。その場で感じていろ、ここから解き放たれる力を……」
空の扉を解放する、彩りのサイコロと一緒に。
そして、
「……ようやく、お目にかかれるのだ」
祭壇の中央に伸びる四角い柱、その先端に、七色のサイコロを設置する。
光が、島に腰を下ろした。
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