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「鳥……」
日誌の挿絵にも、森の中の遺跡にも、そして島に仕掛けられたあらゆる罠、それを見つめる偶像にも、必ず用いられていた奇妙な鳥。
“ログロット教”は鳥を神と讃え、崇拝していた。
だが今日、この瞬間からその歴史は覆される。
「あの中に……飛び込めというのか……?」
嫌な汗にまみれた表情で、苦笑いすら出ないM・クラフトのつぶやきが、呆然と放心していたスペンサーを我に返らせた。
二人が扉だと思っていたのは巨大な嘴。
そこに飛び込めばどうなるか、考える必要などない。
「M・クラフト! サイコロを祭壇から外すんだ!」
苦痛を苦痛で包んだような音が轟く中で、スペンサーが祭壇の側に立ち尽くす彼へ言葉を届ける。
柱に取り付けられたサイコロから放たれる光は、尚も二つの虹で火口の上を十字に交差している。
その接触面に、暗い紫色をした二本の足が、木の枝を掴むようにしてゆっくりと降り立った。
巨大な七色の翼を広げ、黒や赤の羽根を雨のように降らせる。
顔を覆う羽毛は黄と緑。だが注目すべき点は、現れた鳥の姿などではなかった。
「M・クラフト!」
必死に叫ぶスペンサーの声は、島に流れる悲痛と苦痛にかき消される。
その耳を塞ぎたくなるような音の発生源は、鳥の首筋を覆い尽くす赤黒い人の顔。
痛みと恐怖に歪んだ数億の顔が、殺してくれと言わんばかりに嘆きの声をあげている。
「……私も、あのような姿になるのか……?」
M・クラフトは小さなつぶやきを漏らした後、汗にまみれた顔を歪めて、不気味な笑みを宿らせる。
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