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一方で、ルックスランド最強の戦力を見事に打ち倒し、重傷を負いながらも再び山の麓(ふもと)へ向かっていたトニーは、薄雲から現れたものを見て足を止めていた。
「……なんなんだあれは」
ただ空を見上げ、耳を刺す断末魔に耐えながら小さなつぶやきをあげる。
ずれるサングラスもないので見た目は普段通りだが、その表情はかなり大変なことになっていた。
「空に扉が開くんじゃねぇのか? あの嘴が扉なのか?」
一歩を踏み出し、黒い森の中で姿を現した秘宝、“エターナル・エントランス”を凝視する。
「スペンサーとM・クラフトはあれの真下なのかよ……」
遠目にも、何らかの攻撃が空の怪鳥を襲ったことを理解した。
それに怒った秘宝が、山の火口を噛み砕いた瞬間も見ていた。
そんな状況下で自分が戦場にたどり着いても、今の状態では役に立たないだろうとトニーは考える。
愛用の籠手は激闘の末に使用不可能。それ以前に壊れており、かなりの時間を費やした修理が必要だ。
おまけに“解宝”の代償として全身をかなり酷い筋肉痛が襲っている。
戦利品としてアートの宝具、“竜爪丸”を右手に握っているが、トニーには鞘から抜くことすらできない。
“七大秘刀”は使い手を選ぶ特別な刀。持ち主を倒し、力を示したとはいえ、簡単には心を開いてくれないらしい。
「……」
また一歩前に足を出し、山の中へ向かうか否かを考えているその時、彼の周りに冷たい雨が降り注ぐ。
「へ?」
一瞬だけのその恵みに水浸しにされた後、
「どぉあああああああ!?」
一人の男が、悲鳴をあげて降ってきた。
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