その男、探し屋

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二日後―――― “鯨祭”が終わり、街の活気と熱は徐々に冷め始めていた。 関係者はパレードや出店の後片付けを行い、昼までには完全な撤収を終えようとしている。 そんな城下町の早朝。 続々と開店し始める商店街の大通りを、一人の女性が歩いていた。 長い黒髪を束ね、艶のあるポニーテールにしている。 耳には青い宝石のピアス。首には赤い宝石の首飾り。 街の雰囲気には合わない黒スーツを着用しており、顔立ちも生真面目そうだ。 持ち物である紺のキャリーバッグを引きずり、彼女は開店準備を終えていた果物屋に歩み寄る。 そこの店主はガラの悪い中年の男だが、女性は気にすることなく、彼の目の前で立ち止まった。 「失礼、人を捜しているんですけど」 生真面目そうな顔とは裏腹に、声は高く、可愛らしいもの。 「いらっしゃい」 店主は腕組みを解いて、スキンヘッドに巻いた鉢巻きを整える。 「人を捜しているんです」 女性はもう一度、同じ言葉を投げ放った。 すると店主が話を聞く姿勢に入ったので、返しをまたずに続ける。 「ボサボサの金髪に、ダサイ服装の男。名前は確か、スペンサー・ネックエール。“探し屋”をやっている若い男です」 それを聞いた店主は、再び腕を組んで眉を潜め、首をかしげた。 「姉ぇちゃんよォ、あんな野郎になんの用だ?」 質問の答えにはなっていないが、店主は何か知っている雰囲気を見せた。 それを察して、女性は詳しい情報を求める。 「知っているので?」 「知ってるも何も、この街じゃ有名な無法者だ。五年ほど前にこの国に現れて以来、面倒ばかり起こしやがる」 そう言い放つ彼の表情は、本当に面倒くさそうだ。 「居場所は?」 「さぁな。街の外れにボロ家がある。ここから西へ真っ直ぐ行ったところにな。いるとしたらそこだが、やめとけ。ロクなことにならんぞ?」 「ご協力どうも」 女性はそれだけ言うと、店主に軽く手を合わせて礼をし、淡々とした歩調で去って行った。 「……少し、情報収集が必要ね。問題児さんは」 目指す方向は西。 女性は小さくつぶやくと、時計台がある“記念公園”の方へ歩を進めた。
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