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二人は留置所を出て、早朝の街中を歩いていく。
眩しい朝日が差し込む商店街の大通りには、まだ人も少ない。
開いている店もなく、静かで心地よい場所になっている。
「で? 連邦捜査官が俺に何のようだよ?」
そんな雰囲気を少しも感じることなく、不機嫌そうな表情を浮かべて口を開くのは、金髪の男スペンサー。
保釈金を払ってもらい、釈放してもらったにも関わらず、ジェシーと名乗った女性に恩を感じていないらしい。
「なんでそんなに不機嫌なのよ?」
彼女は眉を潜め、苛立ちを感じていた。
高い金額を払い、助けてあげたことに関しての礼もない。
二人の仲は、この時点であまりいいとは言えなかった。
「俺は女は信用しねぇタチでね。特に黒スーツを着てキャリーバックを持った、連邦捜査官はな」
「言っとくけどね」
ジェシーは足を止め、隣を歩くスペンサーを指差す。
「あたしが釈放してあげたのよ? 感謝のひとつくらいしたらどうなの?」
言われた彼も足を止めるが、この要求に応じるようなそぶりは見せない。
ただ、不満げな顔で眉間にしわを寄せ、何日も続いている空腹に耐えていた。
そのことに気づいたジェシーは、浅く息を吐いて不意にキャリーバッグを開け、何かを探し始める。
対するスペンサーは、目の前にいる謎の女に弱みを見せないよう、空腹であることを隠し、腰に手を当てて苦笑する。
「いいか? 俺はあんたに釈放されてやったんだ。その気になれば自分で出れたし、余計なお世話だったってことだ。礼なんか言わねぇっての」
彼がきっぱりとそう言い放った直後、ジェシーがバックの中から出したのは大きめの紙袋。
その中身は、いろいろな種類のパンだ。
「いる? いるなら誠意を……」
「本当にありがとうございました!」
その場に跪くスペンサーを見て、ジェシーは再びため息をついた。
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