6人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日返そうと、事務所に持ってくると、扉の中から話し声が聞こえてきた。
「だから…仕事で…あぁ…悪かったよ。仕事先で忘れて…」
貴方が誰かに責められている感じだった。それも、たぶん間違いなく昨日の傘のことで。
貴方はたぶん独身になったんじゃなかったかな?そうよ。それの事務処理私したから、覚えてる。3年ぐらい前だったはずだから。
それに、彼女ができそうなタイプでもないし…あの電話の相手、彼女なわけないしね~。
扉の前で、考えていたら、突然後ろから声が飛んできた。
「おはよう。巳波(みわ)さん。どうしたの?」
「あっ、おはようございます。鮫島(さめしま)先輩。今日早いですね。」保全担当で3年先輩、先月結婚したばかりなんだよね。
「早くないよ。もう先輩来てるし。」
「立川さんなら、たぶん泊まり込みだと思いますよ。」
「えっ、それはないと思うけどなぁ~。先輩の奥さん鬼嫁だから。」
「えっ?」私知らないんですけど!その類いの事務処理してないよ?
「もしかして、巳波(みわ)さん知らなかったの?」
そんなに笑いこらえなくても、いいじゃない。
すたすたと、扉を開けて自分の机に向かった。手には、貴方の傘を握りしめたまま。
ちょっと、むっとしながら、仕事にとりかかることにした。
そう、昨日の夕刻までは、気にしていなかった貴方の動向だけが、どうしても気になっている自分に戸惑いながら。
最初のコメントを投稿しよう!