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いつも通りの日常、学校の一日が終わりを告げた放課後。
掃除当番を終えると、親友のむーちゃんが抱きついてきた。
「ななみー! 早く帰ろ!!」
「わっ、むーちゃん。重いよー」
「レディーに対して重いとか失礼だぞー!!」
親友に急かされる少女、虎杖浜七海は苦笑しながら鞄を取り、肩越しに親友へと笑顔を向けた。
「よし、帰ろっか」
脇腹をつんつんと突きながら、七海を下駄箱まで押していくむーちゃん。
途中ですれ違う友人達にさよならを言いながら、二人は校門を出た。
「あ、そういえば七海、明日の放課後時間ある? ちょっと話したいことあるんだけどさ」
「うん、あるけど。どうしたの?」
「まぁ、そんな大事なことではないんだけど、ちょっとね」
どんな話なのか少し気になったが深くは考えず、他愛無い会話に意識はすぐに移っていった。
二人はそうしていつものように下校時間を楽しんだ。
そしていつもむーちゃんと別れる交差点に着くと、急ブレーキが聞こえてきた。
「七海! あれ見て!!」
指差されたほうを七海は振り返る。
そこには黒猫が道路に飛び出し、それを避けようとしたトラックが七海とむーちゃんに向かって迫ってくるのが見えた。
とっさに逃げようとしたむーちゃんは足をもつれさせ転んでしまう。
「むーちゃんっ!!」
転んだ友人の肩を抱えるが、突然の出来事に七海の体にも力が入らず立ち上がれない。
七海は無理だと分かりながらも、友人を守るように抱え込んで目を強く瞑った。
激突の衝撃が七海に訪れる。
こんな、いきなり死んじゃうのか。
七海は衝撃だけで痛みの来ない出来事に、そんなことを思う。
だが、いつまでも「死んだ」という感覚が湧かない七海はゆっくりと目を開けた。
するとそこはコンクリートの交差点ではなく、真っ暗な森になっていた。
抱えていたはずのむーちゃんもいない。
目の前には大きな樹があり、その根元にはドアが付いている。そのドアの窓からは光が漏れていて、暗い森の中、唯一の心のより所といった感じのする光だった。
「……なに、ここ……むーちゃん?」
いなくなった友人を探して辺りを見回すが、最終的には目の前の大樹――その扉に視線は釘付けになっていた。
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