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意思とは関係なく感覚がその扉に引っ張られそうになると、横から白いドレスを着た、凛々しい表情をした金髪の少女が出てきた。
「入ってはダメ。これは罠よ。今すぐ元の世界に戻してあげる」
少女は現れるなりそう言うが、七海の中にどうしてもその扉の中に入ってみたいという思いが生まれ、大きくなっていく。
「待って。あなたは誰? あの扉はなんなの?」
「この奥には入ってはダメ。絶対後悔する。私のことは知らなくてもいい。とりあえずここは駄目」
少女に譲る気はないらしく、質問にも取り合おうとしなかった。
「それじゃあ何も分からないし、納得できないよ……」
直前までの出来事を七海は思い返す。
向かってきたトラック。激突された衝撃。いなくなった友人と謎の世界。
これらがもしすべて本物なら、たぶん自分は死んだんじゃないだろうか? 死んでなくとも、今戻れば結果は同じじゃないだろうか。
この「理不尽」を変えられる「理不尽」は、今、目の前にある扉だけ。
ならば。
「私は、変えたいの!」
七海は扉へ向かって走りだす。
「ちょっと! ダメ!!」
立ちはだかる少女にぶつかりそうになると、何も無いかのように体をすり抜け、勝手に開いたドアの向こうへと七海は転がり込んだ。
ドアがゆっくり閉まると、部屋の奥から甘い良い匂いが漂ってくるのに気づいた。
顔を上げ、辺りを見回す。
樹の中ということを忘れそうなくらいにまるで違う空間。
奥に白髪のお婆さんが黒猫を抱いて微笑んでいるのが見えた。
「黒猫……?」
さっきの黒猫だろうか。はっきりと見れなかったから分からない。
「あの……あなたは、誰ですか?」
さっきから同じことを訊いてばかりだなと思いながら老婆に尋ねる。
「ふふ……いらっしゃい……急に呼び出してしまって驚いただろう? まぁ、ここに座ってお茶でもいかが?」
お婆さんは優しい声で向かいにあるソファを指した。
戸惑いながら、七海はソファに座る。
「呼び出したって、お婆さんが私をここに呼んだんですか? あの、だったら私と一緒にいた女の子は知りませんかっ? ここに着いたらいなくなってて……」
「そんなことより。あなたには夢はあるのかい?」
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