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お婆さんが撫でている黒猫は、七海のことをじっと見ている。
「え……ありますけど……」
遮るように「そんなこと」と言われたことに引っかかりを感じたが、七海は場の奇妙な雰囲気に呑まれ目を逸らすしか出来なかった。
「教えてくれるかい?」
「将来の夢は、バーテンダー……です……でも、今はそれより友達を助けたいんです。お婆さん、どこにいるか知りませんか?」
「そう……バーテンダーになるのが夢なの……でも今は友達を助けたい……」
お婆さんはゆっくりと何度か頷くと、顔を上げた。
「あなた、不思議な力は信じているかしら?」
「不思議な力?」
突然切り替わった話題に七海は言っている意味が分からず考え込む。
「……信じてる、かは分からないけど……あったらいいなとは思います」
「そう……じゃぁ私の力を全部あなたにあげるわ……私にはもう必要ないから」
お婆さんはそういうと、手を差し伸べた。
「力……」
本当にこのお婆さんがそんな力を持っているのか、それで友人が助けられるのかは分からない。
だが、理不尽を覆すものを求めてここに来たのだ。ならば、それを得なければ意味が無い。
七海は流れのままに手を差し出す。
お婆さんの冷たい手に触れると、その手から何か不思議な感覚のするものが体に流れ込んでくる感じがする。
それがすべて終わると、お婆さんは手を下ろした。
「良かった……やっと終わったわ……」
お婆さんがそういうと、空間がぼろぼろと崩れ始める。
「え? なにっ? 何をしたの!?」
問いに答える間も無くお婆さんもぼろぼろと崩れていき、黒猫がお婆さんの膝の上から降りた。
「これで今日から君は魔法少女だ。好きなことはなんでも出来る。よかったね」
黒猫は淡々と言った。
世界が全て崩れ去り七海の視界もフェードアウトする。
視界が元に戻ると、そこは見覚えのある場所。いつもの通学路だった。
「――」
突然に戻ってきた世界に、思考が追いつかない。
さっきまでのは何だったのか。
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