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友人は何故普通に横にいるのか。
ここは――さっきトラックが向かってくる前に通った道。
「あ、れ……むーちゃん?」
「ん? どうしたの? それより今日の梨元やばかったよねー!」
さっきまでしていた会話と全く同じだ。
そしてもう少しで事故が起こる交差点へと着く。
「うん……」
友人の声がよく聞こえない。
目の前に迫る「未来の事故現場」にしか思考が向かない。
そのくせ足は止まらない。
これではさっきと同じだ。
「あ、あの、ね。むーちゃん……」
交差点まで足を踏み出したとき、ようやく体が言うことを聞くようになった。
「ん? どうしたの? 具合でも悪い?」
「違う……違うの。このままじゃ、トラックが――」
思考が先走ってばかりで、言葉がまとまらない。
とにかくここから離れなくては、結局同じことになる。
「来て!」
七海は友人の手を引き、駆け出した。
「あ! ちょっと! どうしたのよいったい!」
むーちゃんはそう言いながらも抵抗することなく素直に引っ張られていった。
その直後に急ブレーキ音が聞こえ、鈍い大きな音が聞こえてくると、女性の叫び声が聞こえてきた。
「やだ! 何があったの?」
むーちゃんは七海の手を強く握った。
悲鳴に思わず振り返る。
友人はここにいる。
悲鳴の主は――誰?
音が聞こえてきた方を見てみると、小さな男の子がトラックの前で倒れている。
母親らしき人があわてふためいており、近くにいた男子高校生がその状況を見ながら冷静に説明しているようだった。
おそらく救急車を呼んでいるのだろう。
「…………」
呆然とするしかなかった。
自分達は助かった。でもその代わりに、見ず知らずの人が事故に遭うことになった。
これじゃあ私が〈コロシタ〉みたい。
空白になった七海の頭の中で黒猫の言葉が再生される。「好きなことはなんでも出来る」
なんでも、出来る。魔法少女。
「むーちゃん、ここにいて!」
七海は男の子の元へ走りだす。
「ちょっと! 危ないよ!」
むーちゃんの声も聞こえずに男の子に駆け寄ると、お母さんらしき人が必死に動かない子供に声をかけている。
「ねぇ! 返事をして! アツシ!! アツシ!!」
半狂乱になりながらもお母さんは呼びかけている。
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