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状況を見て、一瞬七海の全てが凍りついた。やけに喉が渇く。
だが止まってられない。
本当に何でも出来るなら、私達の代わりに事故に遭わされたこの子を助けることだって出来るはずだ。
七海は男の子の傍にしゃがみこみ、両手をかざす。
「お願い……治って……!」
この子は関係ない。ただ私が未来を変える行動を取ったから、その修正として置き換えられただけ。巻き込まれただけ。
だから。この子は関係ないから。
お願い。
治って。
生きて。
心の底から、強くそう願った。
すると両手から暖かい何かが出ているのが、目には見えないが分かった。
周りの時間が止まっているかのようにすべての音が消え、しばらくするとまたお母さんの子供を呼ぶ声が聞こえてきた。
すると子供は頭を抑えながら上半身だけを起こした。
「頭痛い……僕どうしたの? お母さん、なんで泣いてるの?」
男の子はすっと立ち上がると、お母さんの頭を撫でた。
何が起こったのか理解できないお母さんや周りの人たちはしばらくの間固まっていた。
誰も気づかない道路の脇、そこから黒猫が顔を見せる。
「よりによって、最初に使った魔法が蘇生だなんて。代償が大きいな」
黒猫は一人ごちるとすっと姿を消した。
「ちょ、ちょっと七海! 何したの?」
いつのまにか七海のそばにむーちゃんが駆け寄ってきていた。
「はあ……はあ…………私、今……」
動悸の激しさや息苦しさを無意識に感じないようにし男の子が起き上がったのを見ると、七海は自分の両手を見る。
今のが魔法。理不尽を理不尽で覆す、力。
「……よかった」
だが今はそんなことより。
「よかったよ……むーちゃん、私、誰も死なせないで……」
理屈も何も抜きで、誰かを死なせずに済んだことがなによりも嬉しくて、涙が止まらなかった。
七海は友人にしがみついて、泣きじゃくった。
「え、ええ、ちょっと、なんで七海が泣くのよ……何もなかったんだよね? 大丈夫だったんだよね?」
むーちゃんは誰も傷ついていないのを確認して、恥ずかしそうにしながら七海を立ち上がらせた。
「とりあえず、今日は帰ろうよ。大丈夫?」
「うん、大丈夫、大丈夫だったよ……」
野次馬たちに見られながらも二人は家路についた。
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