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三月上旬、肌寒さが残るこの季節に少し早い桜の花がひらひらと舞っている場所があった。
その桜の木を背もたれにして、桜の木の隙間から朧月夜を眺めている少年がいた。
少年の座る横には藍色の毛並みの猫が春風に髭をそよがせて寝ていた。
「…今日で五日目か…余裕で逃げ切れる気しかしねぇな……」
少年の呟きに猫は耳を一度ぱたりと動かし、大きな欠伸をして顔を上げた。
「にゃーん《そんな余裕ぶってて…あっさり捕まったりしてねー?》」
猫が鳴くのとほぼ同時に少女の声が少年の頭に響いた。
「五月蝿い。お前は捕まって毛皮にされた方が良いんじゃないか?」
少年は猫の口答えが気に障ったのか猫の髭を引っ張りお腹辺りをぐりぐりとしだした。
「うみゃーん《やめてー!毛並みがぐしゃぐしゃになるぅ(泣)》」
お腹をぐりぐりと撫でられてイヤイヤと頭を振る猫だったが、声は満更でも無いような明るい声色だ。
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