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『彼氏といるとこ見ました』
彼氏、ねぇ。
後頭部をかきながら溜め息を一つ吐いた。
「ミタ姉さーん」
設計部に戻ってきた酒飲み仲間に顔を出しに定時過ぎに訪れた。
「おー菅野ちゃん」
ミタ姉の隣の空いていた席に座って話していたら
「菅野ちゃん、主が戻ってきた」
そう言ってミタ姉が視線を上げる。
「え?ぬし?」
振り向くと、今朝エレベーターで一緒だった男性が私を見下ろしていた。
「え?うそ。
ここ貴方つかってるの?」
だって机の上に何も出てなくて
スッキリ、綺麗過ぎて人が使っている様に見えなかった。
「ごめんなさい」
慌てて立ち上がり席を戻すと
無表情のまま座った。
その時ふわっとコーヒーの良い香りがした。
「いい香り」
呟くと見上げられた。
「飲みますか?」
「え?いや、悪いです」
両手を振って断ると
「コーヒー淹れるだけでリフレッシュ出来るので、良ければどうぞ。
勿論口つけてませんから」
マグカップを私に差し出す。
「……いいの?」
その香りに誘われて私はカップを受け取った。
「後でカップ返して下さい」
そう言ってデスクの引き出しから資料やファイルを取り出して仕事を始め出した。
インスタントじゃない香り
とってまで温かいから
ちゃんとカップを温めたんだ。
席に戻りコーヒーを飲む。
「……美味しい」
肩の力が抜ける。
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