エレベーター

6/25
前へ
/537ページ
次へ
「…………え?」 宙に浮いたままだった手は 力なく身体の横へ戻ってきた。 「色々、大丈夫ですか?」 なに? 何で? 何を知ってるの、この男。 「もうやめたら? 不毛な関係」 「……そんなの 御坂に言われたくない」 「いいならいいです」 「…………」 「でも、どうにかしたいなら 手伝いますよ。 出来る事なら」 「…………っ」 何で? 誰も知らない筈なのに。 体温が、さぁっと冷えていく。 指先が冷たくなっていく。 気持ち悪い。 吐きそうだ。 「お茶位なら出しますよ?」 彼は歩道橋の向こうに見えるマンションを指しながら低い声でそう言った。 「…………」 なんで私は御坂に着いてきてしまったのだろう。 ダイニングテーブルに座り、キッチンに立つ御坂を見た。 エレベーターの中は 会話はなかった。 「もう、夜なのでコーヒーはやめました」 彼はそう言ってほうじ茶を出してくれた。 「ありがとう」 香ばしい香りを深く吸い込んだ。 あぁ、染みる。 「菅野さん」 「…………」 名前を呼ばれて視線を上げた。 眼鏡を外した御坂は口を開いた。 「一緒に住みますか?」
/537ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1074人が本棚に入れています
本棚に追加