一。銀狼の館

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 廃屋から逃げ出した次の日、私はとある場所へと足を運んでいた。 「……」  ここだ…。  私は間違いの無いことを確認し、一つの鉄扉の前に立った。  その扉には「銀狼の館」、と書かれたプレートが一枚はられている。この銀狼の館というのは、私たちの部活の内でとても信憑性があると有名だった、霊能事務所と言われる所だ。  …私はあの廃屋から逃げた後、タクに送ってもらい、なんとか家へと辿り着いた。が、母と話をしながら、結局、一睡も出来ずに朝を迎えていた。 何故こんな事になってしまったのかと、非情な現実が受け入れられなかったのだ。 あのような行為が、自ら「死」というものに片足を突っ込む行為であったと悟ったとき、私は、自分の馬鹿馬鹿しさに泣き喚き出した。  私がもう少しだけ冷静だったら、あと少しだけ考えるということをしていたら…。  私はそんな意味の無い後悔に更ける度、また涙を流して、繰り返し、泣き疲れて…、そして、お祓いのくだりで思い出していた「銀狼の館」へと赴き、今に至るのだ。  ドアノブに手をかけると、何故か、恐ろしく冷たいことが分かった。私は、この扉を開けることに躊躇しているのだ。 そもそも、信憑性がある理由というのも、「この町にあの事務所が出来てから、心霊現象がパタリと途絶えた」という、なんとも言い難い噂だ。  しかし、わざわざ名も知らぬ霊媒師の所に行くよりは、ここの方がいいのかもしれない。神社とか、そんな所よりも。  …いや、違う。何となく…、ただ、「ここがいい」という気がしたのだ。  私は意を決し、恐る恐る、扉を開けた。 「あのー…」  と、声を発した時点で、私は目を疑った。  恐らく接客用と思われるテーブルの上に足を乗せ、新聞を大きく開き、ふんぞり返っている奴が一人。 「ん?いらっしゃーい」  その男は、私がご来訪なさったことに気付いたのか、平坦な声で挨拶を掛けて来る。  私は早速後悔し、帰ろうかと思い、ドアノブに手をかけた。全く、普段使わない勘を当てにした私が馬鹿だった。 「ところでお客さん、昨日の夜中辺り、廃屋にでも行きました?」  ドアノブを回そうとしていた、私の手が止まった。  ちょっと待て。この男が今何を言ったのか整理できない。 「やっぱりか…。1人で行ったんですか…って、何だガキじゃねえか」
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