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私を年下と判断したのか、途端にぶっきらぼうな口調でそう言った男は、私が振り向いたと同時に新聞を片付けていて、私を胡散臭いものを見るような目で見ていた。
「ったく…、しゃあねえな。で、1人で行ったのか?ああ、いいや、とりま名前教えろ」
「ちょっ…待ってよ、何でアンタ私が昨日…」
「質問してるのはこっちだ」
男は急に表情を変え、強張った口調で、私の言葉を遮った。
「早くしろ。やらなきゃいけねえことが山ほどあることくらい、分かるだろ」
-…。
「東条美紀…」
すぐに分かった。この男は何かしら知っていて、私を責めている。だから、私は目を逸らして自分の名前を言うことしか、出来なかった。
「とうじょう・みき、な。何て書く?あと、住所と電話番号」
男はメモを取り出す。私はそれに答えながら、未だ抱えた自責の念に、泣き出しそうになっていた。
ワケが分からない。大変なことをしてしまった自分も、それ以上の何かを責めてくるこの男も…。
「OK.美紀。じゃあ昨日、何があったか…話してもらおうか?」
いきなり呼び捨て…だが、今はそれ所じゃないことくらい理解している。
私は、全て話した。昨日お母さんに一度話していたから、話が混乱したり、錯乱したりはせずに済んだが、ヨウスケが引き摺られて行った所を話始めたあたりで、堪えきれず、とうとう涙が流れ始めた。
声も涙声になり、しゃっくりが混じる。何度も何度も、ヨウスケの姿が、叫び声が、フラッシュバックした。
そうして、一息に話し終えると、目の前ににティッシュボックスが差し出されていた。
「廃屋を出てからは、何も無かったな?」
男の質問に、私は涙を拭き取りながら、無言で頷いた。
「私が…」
「あ?」
「私がもし…ッ…行くの…止めてたら…ヨウスケ…は死なずに済んだのに…どうして…」
「過去に後悔を持ち込んでも、意味はない。それ以上考えるな。馬鹿になるぜ」
…そうだ。私は馬鹿だ。もう、取り返しのつかない。どうすることも出来ない。私にはもう、為す術がない。本物の馬鹿だ…。
男は、私の方をつまらないものを見るような目でジッと見ていた。そして溜め息を吐くと、唐突に立ち上がり、私の横に立った。
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