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「お前は、人を殺したんだな」
私はまだ涙の溜まった目で、男の方へと振り返った。顔が赤くなるくらい、何かを言いたかったはずだった。しかし何も言えず、私はただ息を飲み込んだ。
何かが壊れる音がした。派手な音を、静かに立てて。
ヨウスケは…私が殺した…。その言葉に、間違いは無いんだ。私が、ヨウスケを殺したんだ。
そして私は、俯いた。いっそ、永遠に下を向いていたかった。もう、何も出来ないと。永遠に絶望の内に居たい気持ちだった。
男は黙っている。もう、どんな表情をしているのか、分からない。分かる気すらない。もう、どうでもいいのだ。
ああ、このまま帰ろう。ここに居ても、何もならない。
しかし、そう思って、立ち上がろうとした次の瞬間、
-パンッ
乾いた音が、全てを遮った。
最初に音が聞こえて、次に頬に痛みが走り、この男に叩かれたのだと気付いた。
私は急な衝撃に声を出せず、目で「何をするの」と訴えたが、男は間を置かず、すぐに口を開いていた。
「お前は人を殺した」
第一声は、それだった。相変わらずの冷たい目で、私を上から見下ろして。
しかし、その後、思いもよらない言葉が続いた。
「今のはその罰だ。だからもう、気にすんな」
-…。
何と言ったらいいのか、分からない。でも、この男から、目が離せない。自分が今、何を感じているのか分からないからだ。
罰?目の前にいるこの男に、何を裁く権利があるというのか。
「…意味分かんない…」
だから、とりあえずそう言った。しかし、それは半分嘘だ。この時、何となくだが、この男が言いたいことだけは分かっていたように思う。
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