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男は呆れた様子を見せてから、かがみ込み、私を目線を合わせた。
「だーかーら、お前の罪は、俺が背負ってやる。だからもう、一生気にすんな」
そう諭すように言った男の表情は、もう私を責めているものではなく、彼は私に手を伸ばしたのだ。
「狼鬼零ロウキ・ゼロだ」
男…零は、ニッと歯を剥きだして笑った。
私は言われたことと、置かれた状況を理解するまで、この男の手を取っていいものか、と悩んだ。
が、私は、どこかで救われたかったのかもしれない。気が付けば、そんな滅茶苦茶なことを言われて、少し嬉しくなってしまっていた。
叩かれて嬉しくなるとは…私は、Mなのかもしれない。
そして悩んだ末、私は、涙をもう一方の手で拭いつつ、零の手をとった。
「ヘンな名前…」
今度は堪えるまでもなく、また涙が溢れてきた。私は昨日今日で、どれだけ泣いているんだろうか。
そして今、さっきまでの自分のことを考えると、私はとんでもない場所へ行こうとしていたのかもしれない。もう戻れなくなるような、真っ暗な闇の中に。
零は、ハッ、と息を吐くように笑った。
「うるせェ。代々受け継がれてきた由緒ある名前だ」
そして口悪く言った彼の表情が、もう私を責めることはなかった。
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