2)終わりと、始まり。

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伊東がそう嘯けば、少しだけむっとした顔の篠原が、いやいやそれは違うと首を振る。 「…その日が来たって死なせやしません。今更何が来たって恐ろしくもありませんから。人だろうが物の怪だろうが斬り伏せてやりますよ。」 「そりゃ頼もしい。しっかり舵をとってくれよ?私が道を踏み間違えたのなら正すのはお前さんだ。」 「承知仕りましたよ、伊東「参謀」。」 「こら!馬鹿にしてくれるな。」 軽口を叩きあいながら、涙に濡れる頬をしきりにごしごしと擦る篠原は、今度こそその誠実そうな顔へ笑みを浮かべた。まさに泣き笑いである。 篠原は涙も乾かぬうちに、伊東に差し出された大福を一口で頬張ると、「この大福は随分塩辛いが旨い。一体隠し味に何が入っているのだろう?」とおどけてみせる。 「あぁ…それかい。それが塩辛くて旨いのはね、篠原某の魂籠る秘伝の妙薬とやらが入っているからだそうだよ。」 「ははっ…。違いねぇ。流石は先生だ。」 冗談を冗談で返された篠原は、やっぱり先生には敵わないなと笑顔で返し、そう言われた伊東もまた笑みで応じた。そうして始まった楽しげな忍び笑いは夕方遅くまで続き、仔猫さんこと梅が帰るまで尽きることがなかった。
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