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初めこそ「何と恐ろしい話を…。何故、旦那様が…。」とさめざめと泣き崩れていた梅であったが、伊東がこの世を去るその時は、必ず猫が看取ってくれると聞き、寂しげに笑った。
うめは、ここ数日のうちに住み込みで働くようになった娘が酷く気になっていた。何処か夫に似た知性を感じるその娘は、夫から「猫だ。」と紹介されたきり。
猫と呼ばれるその娘は、時折、重そうな荷を背負って、にこりとこちらに笑いかける事はあったが、その素性はようとして知れぬまま。知る機会にすら恵まれなかった。
結果的に、うめは「猫」と呼ばれる娘を、旦那が妾にしようと連れ帰ったのだと考えた。その為、梅の異質な空気を感じては、旦那様は一体この娘のどのあたりをお気に召されたのだろうと大層不思議に思っていたくらいだ。
旦那の、猫を見詰める瞳の熱っぽさと言えばもう、それはそれは驚く程で、うめはとうとう少しも想ってはいただけなくなったか…と、数日は人目を忍び涙をのんだものである。
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