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しかし、今ならわかる。
漸く全てを聞かされると、とても信じがたい話なのにも関わらず、納得せざるを得ない何かを、うめも確かに感じた。
これも神仏の思し召しだろうか…。
そう捉えたうめは、もうこの離縁を拒絶することはなかった。ただただ、共に生きた夫の最期が、安らかであれと願うばかりである。
「…長らく御世話になりました。旦那様におかれましては、どうぞどちらへ居られましてもお身体ご自愛下さいませ。」
「最期まで…無理を言ったな…。
すまない。…息災でな。」
「はい…。どの様なお姿になろうとも、大蔵様が道場へお帰りになられる日をお待ち申し上げております。」
「…なら、立ち寄らせて貰うとするよ。
お前さんの新しい旦那を見極めに…ね。」
「まぁ…。」
もう今生会えぬかもしれぬのに軽口を言う伊東に、うめは、「旦那様らしい事だ。例え離縁しても、この方は変わらず私のお慕いした人なのだ。」と思うと、誇らしげに笑って、いそいそと旅支度を始めた。
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