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和久井家に嫁いで、もうすぐ四年になろうとしているのだが、まだ子宝に恵まれる気配がなかった。
結婚した当初、潤一郎は至って優しく接してくれた。姑の都子も舅(しゅうと)の源次郎(げんじろう)も実の娘のように接してくれた。
芳子が控えめで大人しい性格だったので、最初は温かく迎えられたのだろうと今になって思う。
とは言え、芳子の実家の父と母の雰囲気とはまるで異質なもので、意識せずとも絶えず緊張してしまうというのが本音だった。
池下の家も和久井の家に劣らず豪邸だったが、池下紡績は池下光男の父、秀信が一代で築いたもので、和久井の家が代々続く財閥と関わりのある家系であるということとは違い、家族の雰囲気としてあまり緊張を感じることがなかった。
小さい頃から接してきたという理由もあっただろうが。
財閥の家系とは言え、GHQの元で行われた財閥の解体などで財産や事業などの規模も縮小され、また源次郎も五人兄弟の末っ子ということもあり、生涯お金の心配はしなくていい、と言えるほどその恩恵を受けているわけでもなかった。
潤一郎が、源次郎の受け持っている小会社に行かず楽器会社に就職したのは、先行きが不透明な会社より、将来有望と思われる会社に魅力を感じたのだということだ。
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