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結婚して一年を過ぎる頃となると、都子は「そろそろ子供が産まれてもよさそうなのにね」などと、やたらと子供の話題をするようになった。
源次郎は息子の潤一郎とは対照的に、寡黙で、またそうであることが風格を感じさせる、お札の肖像画が似合うような人物だった。
でも、決して悪気はないのだろうが、ごくたまに言う言葉が「早く孫の顔が見てみたいものだよ」だったので、芳子は正直かなり居心地の悪い気持ちを抱いていた。
結婚して三年を過ぎるようになったある日、子供のことが食卓で話題に上がった時に、芳子が「こればかりは、コウノトリに訊ねてみないことには分かりませんよね」と言ったのだが、どうも都子には、嫌味か、気取っているように受け取られたらしかった。
その言葉を境にして、都子の態度は一変した。芳子の作る味噌汁は薄いから自分が作り直すと言っては鍋に入っているそれを流したり、潤一郎のために買った洋服のことを、品がないとゴミ箱に捨てたりもした。
勿論、そんなことが常時あったわけではなかったが、最初は都子を宥めていた源次郎の態度も少しずつ冷たくなり、潤一郎の態度も優しさがなくなり、横柄なものへと変わっていった。
他の家に嫁ぐということはこういうものなのだと、芳子は自分に言い聞かせ、諦めると同時に我慢を重ねてきたのだったが、この日はとうとう爆発してしまった。
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