1・コイヌとシンジンルイ

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……、 「――深町、菜々です。桜ちゃんとは、お友達です」 菜々ちゃんという人――深町さんが沈黙を破り、自己紹介をしてくれた。 「っ、もっ、森野ですっ。ここの職員ですっ」 「はい。――でも、以前からも知っていました」 「っ、そうでしたかっ」 思わず後ずさってしまった。 ……突然話しかけられるのは驚いてしまう。けれど、深町さんには気付かれていないようで。良かった。 「すみませんでした」 「えっ、なっ、何がでしょうかっ?」 「原書を読んでみようかと思って。桜ちゃんに、どれがいいか迷うわっ、て言ったら、任せてっ、て突然……」 「……っ、そうでしたか」 「――森野さん、お詳しそうなので、可能であれば、初心者でも読破できそうなものを幾つか、教えていただけると……あの……嬉しいのですが……」 声が、怯えている? 桜ちゃんよりも身長のある僕が、俯き加減の小さな深町さんの表情など窺えるはずもなく、感じたことが正解なのかを確認することは出来なかった。 逆こそあれど…… ……怯えられるなんて、初めてだった。 そんなふうに感じてしまったものだから、僕もこんな様子だったのだろうか、と昔を色々と思い出してしまった。
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