1・コイヌとシンジンルイ

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あの時のことを思い出し、私の内側が熱くなる。 嬉しかった。 けど、同時に恥ずかしい。なんで私、あの時……『存じております』なんて開口一番おかしな言葉……。 そして、気にもされていないことに勝手に落ち込む。 「ありがとうございました」 「……えっ?」 「桜ちゃんから、お勧めリストいただきました」 「いっ、いえ、そんな……」 「あと――これは少し前のことですけど、閉館時刻に気づかなくてすみませんでした。教えていただいて助かりました」 「っ、そんなことっ、あったんですねっ。仕事ですから気になさらずにっ」 そっか。覚えてるわけは、当然ないよね……うん。 日和ってしまった気持ちのせいで、私からの会話しかない空間に沈黙が流れる。 いけない。切り替え切り替え。 「じゃあ、私はこれで失礼します」 「……えっ……用があって来たのでは? 僕は、もう行きますから、こっ、ここはどうぞご自由にっ」 こんな言葉、 「――なんで、そう思ったんですか?」 もらえるとは、思ってなかった。
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