1・コイヌとシンジンルイ

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決して、視線を合わせてくれることなく、森野さんは答えてくれる。 「っ、いえ……その……深町さん、よくここにいらっしゃるので。だから、今日もかと……」 まるで、私が詰問してるみたいな弱々しい声。 ――ああ。けど、知っていてくれた。 私がこの中庭に来るのは、気に入ったからもあるけど、森野さんと同じ景色を見たかったから。 でも、そうしてきた多くの時間より、今、この一瞬の方が幸せでたまらない。 もう、今日は充分。 足りないことはたくさんだけど――これで充分だ。 「いいんです。用はもう済みましたから」 森野さんが静かに首を傾げる。 「お礼です――森野さんに」 「そっ、そんなことのためにっ!? ……申し訳ありません」 「大事なことですよ。だから、そんなに恐縮しないで下さい。それでは――」 ――サヨウナラ。
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