1・コイヌとシンジンルイ

5/27
259人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
ふたりのやりとりを聞きながら、どのあたりからだろうと推測していたら、代わりに、といった具合に健人が答える。青空の絵が施されたカフェの天井を仰ぎ、オーバーリアクションで。 「千花には無理。透は相変わらず女にビクつく毎日だけどさ」 「別にビクビクなんてしていない」 「アタシは、森野君がまともな時代からの付き合いだから? ――うん。なら今からでも遅くない。諸悪の根源、潰しに行っちゃう?」 「っ!? だっ、伊達さんっ、早まらないでっ! 僕はもう平気なんだしっ」 本当に潰しに行ってしまいそうな伊達さんを、僕だけが必死になって宥めた。 「まあ、千花は座っとけ」 ひとしきり伊達さんが騒いだあと、ようやく健人は言う。対処してくれるなら、もっと早くにそうしてほしかった。 はっきりとは見ていないけれど……おそらく、近い席の人たちには相当笑われている空気を感じる。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!