ラプソディー

2/7
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
━━…… 私は小さな旅館で女将をやっています。 このお話はとあるカップル達のお話です。 ……━━ 「いらっしゃいませ。 花咲旅館へようこそ」 旅館の仲居が朝早くとある客を出迎えた。 一目でカップルだとわかる客だった。 仲居はカウンター越しにニコニコしている。 「あの……。 『桜の間』空いてますでしょうか?」 髪の長い清楚なイメージの女性が唐突に仲居に尋ねた。 「あ、はい。 『桜の間』でしたら空いてますが……。 失礼ですがあなた方は恋人同士でしょうか?」 仲居は二人をジロジロと意味深に見た。 「はい、そうです」 迷う事なく短髪のワイルドな男は返事をする。 「申し訳ありませんが、ご利用は控えていただけないでしょうか?」 複雑な顔をして仲居は断る。 「いえ、俺達はどうしても『桜の間』がいいんです」 凜とした顔付きで男は言う。 隣で女も真剣な顔をしている。 「……何かこだわりでも?」 仲居は男と女を交互に見る。 「お客様のプライバシーを根掘り葉掘り聞くのはよくありませんわ」 奥の方から細く綺麗な声が聞こえてきた。 「……若女将!」 仲居の後ろに長い髪を綺麗に結った美しい女性が上品に立っている。 「どうぞ、ご利用になって下さい」 若女将と呼ばれた女性は『桜の間』と書かれた鍵を手にした。 「ありがとうございます!」 二人は深々と頭を下げた。 「よかったわ。 感謝します」 頭を下げる二人を若女将は『桜の間へ』と案内した。 「ごゆっくりくつろぎ下さいまし」 一礼をし、若女将はその場を後にした。 *** 「若女将! どうして断らないんです!」 待機所に戻ってきた若女将を先程の仲居が怒鳴り付ける。 「どうしたのよさ~」 仲居の怒鳴り声に反応し仲間の仲居達もどやどやと集まってきた。 「どうもこうもないよ。 若女将、『桜の間』に恋人を泊めたんだよ」 身振り手振りにさも大袈裟に仲居は仲間の仲居達に説明した。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!