6人が本棚に入れています
本棚に追加
「単刀直入に言いましょう。
数年前、あの部屋に泊まったお客様が事故にあって亡くなられて以来あの部屋にはそのカップルの霊が現れるようになったのです。
その霊は仲の良いカップルに嫉妬し別れさせてしまうのです」
二人を見ながら若女将は淡々と説明する。
「……嫉妬か。
確かにそうかもしれないな」
男は複雑な顔をしてうんうんと頷いている。
「『仲直り記念旅行だ』ってはりきってたものね」
女も深く頷く。
「あなたこの話知ってたのですか?
営業に差し支えるので外部に漏れないようにしていたのですが……」
二人の反応に若女将は驚きを隠せない。
「知ってるも何もそのカップルの兄弟なんです、あたし達……」
若女将の目を見ながら女は答える。
「俺は亡くなったカップルの女の方の弟で彼女は男の方の妹なんです」
補足するように男は言う。
「何か複雑ですね……」
二人の話しを聞き若女将は何と反応したらいいかわからなくなっていた。
「……あたしの兄と彼の姉は、認められてないカップルだったんです」
悲しげに男は話す。
「認められてない……ですか?」
意味がわからず若女将は首を傾げる。
「あたしの両親と彼の両親があまり仲がよくなくって……」
女はお茶を一口飲んで気持ちを落ち着かせる。
「両親の事を話す度に姉達は絶えず喧嘩してました。
どうして説得できないのか……って」
若女将の目を見ながら男は話す。
「一度旅に出て仲直りして気持ちを切り替えると言ってました」
女も若女将の目をジッと見る。
「成る程……」
二人の目力に若女将は負けそうな気持ちになっていた。
「この旅が終わったらもう一度親を説得し結婚するんだとはりきっていました」
女は膝の上でギュッと握り拳を作る。
「その矢先に帰りの列車で事故に遭い亡くなりました」
女の握り拳の上に男はそっと手を重ねた。
「そうだったんですか……」
二人の行動を見て若女将は複雑な気持ちになっていた。
「俺達は遠くから二人を見守っていました。
時には一緒になって親を説得しにいったりしてました」
チラッと一瞬女の顔を見て男は言う。
最初のコメントを投稿しよう!