ラプソディー

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「……私もあなた達を見習わなきゃいけないですね」 二人を見て若女将は悲しげに笑った。 「どういう意味です?」 若女将の言っている意味がわからず二人は首を傾げた。 「私は二年前、先代の女将……母を亡くしました。 私は地元に戻り女将を引き継ぎました」 ぽつりぽつりと若女将は話し始めた。 「ここを出られてたんですか?」 男はストレートに質問する。 「はい。 女将を引き継ぎたくなくて都会へ行ってました。 そこである板前と出会い結婚しました」 「旦那さんも一緒に戻られたんですか?」 女も若女将に興味を持ったのか質問を投げ掛ける。 「一緒に戻ってこの旅館の料理長をしてました。 私も旦那もここの人達と上手くいかず喧嘩が絶えませんでした」 若女将の目には薄ら涙が浮かんでいる。 「環境が違ったからでしょうね……」 二人は若女将からもらい泣きしそうになっていた。 「喪があけ落ち着いた頃に今度は旦那を亡くしました。 そしてお腹の子も……。 私は自分の運命を怨みました。 どうして私ばかりが……と」 若女将の目から大粒の涙が流れ落ちる。 「……辛い時は辛い事が重なる事がある。 兄達もそうだったのかもしれない」 若女将の落とした涙を二人はジッと見た。 「この『桜の間』を見る度に私は自分の不幸と重ね合わせ寂しさで胸が苦しくなってました」 涙をふきながら若女将は言う。 「……恋人にまつわる話しがある部屋ですからね」 若女将の話しで二人は胸が一杯になっていた。 「でも、今日あなた方にあえて私は少し前向きになれました。 ありがとうございました」 若女将はニッコリ笑った。 「いえいえ。 お礼をいわなきゃいけないのは俺達の方です」 「そうですよ。 お陰で兄達の幸せそうな顔が見れたんですから」 若女将の笑顔を見た二人は何だかホッとした。
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