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再び溢れる感情
掴まれている腕と反対側の手で、その指先に触れようとした瞬間
「ほら、乗れよ」
腕から体温が遠のき、助手席のドアを開けてくれる
「ぁ…、ありがとう」
そんな言葉しか紡ぐ事が出来なくて…
車に乗り込んで、直ぐに助手席側の窓ガラスに視線を運んだ
何かを察したのか、コイツは無言で車を運転している
何か話しかけないと…
そう思っても、何一つ話題が浮かばなくて
ただ、早くマンションに着いてくれる事を祈るしかなかった
マンションに到着して一言、ありがとうって呟いた俺に
「カメ、大丈夫だよな…?」
心底心配そうな顔で訊いてくるもんだから
何だか泣きそうになって…
それをまた誤魔化して
「何が?
俺は別に何ともないし
本当、送ってくれてありがとうな
じゃ、おやすみ」
笑顔を浮かべてドアを閉めた
いつもは車が出るのを見送るのに、それもせずに…イヤ、出来ずにマンションのエントランスに入る俺を
アイツはどう思っただろう
上昇するエレベーターの中で、視界が歪んだ
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