破章:奮闘と結実

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「思えば俺は、部活の面で楠に大分頼ってしまっている。 だから今日、少しでもそれに報いてやりたいんだ。と言う訳で、この後もしばらくつき合ってくれ」 「そ、それってつまり……」 「さあ、行くぞ!」 先輩は気合をいれて立ち上がると、私の手を引っ張って喫茶店を出た。 …… 「お、あれなんかどうだ? 結構美味そうだぞ」 「わ、私はあのような洋菓子はちょっと……」 「まあそう言わずに。 何事も挑む前から避けていては良くないぞ」 先輩はそう言って、クレープを買って私に差し出してくる。その間も、手はずっとつながれたままだ。 (正直、胸がいっぱいでおやつどころじゃないんだけど……) とは思いながらも、私は先輩の好意を受け取り、クレープを口に運ぶ。 「……わ、凄く美味しいですね、これ」 「何だ。嫌いとかじゃなくて、そもそも食うのが初めてだったか」 「あ、はい。 両親共に、このような食べ物は与えてくれませんでしたから」 「そうかそうか。 それじゃあ、初めての記念って事で、遠慮なく食べてくれよ」 「はい!」 …… 「先輩! もう1つ、もう1ついいですか!?」 「あ、ああ、いいぞ」 「ありがとうございます!」 先輩は私の要求に応え、もう1つクレープを買ってくれた。 「……にしても、良く食べるな。これで10個目だぞ」 「だって、こんなに美味しい物だとは思ってませんでしたから。 ……それとも、先輩は良く食べる子は嫌いですか?」 「いや、むしろその逆。 良く食べる子の方が、健康的でいいじゃないか」 「そうですか、良かった……」 「だが、少し落ち着いて食べた方がいいな。頬にクリームがついてるぞ」 「え?」 先輩はそう言ったかと思うと、私の頬についてたクリームを指ですくい取って、そのまま食べてしまった。 「な、ななな……」 「ん、どうした?」 「だ、だって、その……」 「……ああ。 本当に楠は可愛いな、こんな事で反応するだなんて」 「~!!」 「さて、食ってばっかりじゃ色気がない。次の場所に行くとするか」 ゆでだこよりも真っ赤になった私をそのままに、先輩は再び私を引っ張って行く。 ……
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