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「……うん、ちょっとベタ過ぎるけどここにするか」
先輩が連れて来てくれたのは映画館だった。私たちは一番後ろの席に並んで座る。
「私、こういうのも初めてなんですよ」
「そうなのか」
「それで、これってどんな内容なんですか?」
「簡単に言うと恋愛物、それも高校生の恋愛事情を描いたものだ」
「なるほど……」
「おっと、始まるぞ」
その言葉と同時に、館内が急に暗くなる。
「ひゃっ!」
「はは、びっくりしたか?」
「だって、急に暗くなるから……」
「そういうもんだからな」
そして、スクリーンに映像が映し出される。察するに、女子に人気の男子と恋愛関係になろうと奮闘する女の子の話のようだ。
(……なるほど、こういう手もあったのか)
私はそれを見て、先輩へのアプローチの方法を学んでいく。
「……なあ楠。
お前はどうしてこの様な娯楽が存在するか、考えた事があるか?」
映画が中盤に差しかかった頃だろうか、先輩がそう声をかけて来た。
「いえ、特にないですね。先輩はどう考えていらっしゃるんですか?」
「俺は、こういうのは人間の理想の投影だと思ってる」
「と言うと?」
「つまり」
スクリーン上の俳優と同じタイミングで、先輩が私の背中に腕を回してくる。
「こうやって、女の子を自分の方にそっと寄せたり……」
「わっ……!」
「少し力を込めて抱き締めたり……」
「わわっ……!!」
「そのまま口づけを交わしたり……。
そういう理想を二次元に投影したのが映画の様な娯楽だと、俺は考えてるんだ」
「……」
先輩は映画の動きに合わせて動作をして来たが、私は先輩に抱き締められた辺りで限界に来て、そのまま気絶してしまったのだった。
……
「もう、今日の先輩は意地悪です!」
「ははは、本格的に気を悪くさせちゃったかな」
頬を膨らませて怒る私に対して、先輩がそう声をかけてくる。
「まあでも、これはおしおきだからな。多少意地悪く見えるのも仕方ないさ」
「え、それってどういう事ですか?」
「何の為かは知らないが、部活の相談と偽って俺の事を探ろうとするなんて、いい度胸してるじゃないか」
「うっ…。
き、気づいていたんですか」
「そりゃそうだ。
この真田 剛、目を見ればその者が何を考えているかはすぐにわかる。楠のように近しい者だったらなおさらだ」
先輩はこちらに笑みを向けながら、そう言葉を続ける。
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