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「はい、そこまで!
少し休憩にしましょう」
私の号令で、練習に励んでいた部員が一斉に腰を下ろす。
ここは我らが空手部専用の道場。そして今は、朝練のメニューをこなしている最中だ。
「ほう、中々上手くやってるじゃないか、楠」
「あ、先輩!」
すると間もなく、今は引退した元部長の真田 剛(サナダ ゴウ)先輩が道場にやって来た。
先輩は欠点を見つける方が難しい程の完璧超人で、男女両方から人気が高い。
「お前を部長に推薦して正解だったよ、これで我らが空手部ももっと強くなるだろう。……って言っても、部員はあまり増えなさそうだけどな」
「うちは厳しい事で有名ですしね。でも、これ位の練習について来れない様では、強くなれませんから!」
私は拳にぐっと力を込め、そう力説する。
「ん、偉い!
その心を忘れず、決して自他に甘える事無く、練習に励んでくれよ」
先輩はそう言って私の頭を軽く叩き、他の部員に声をかけだす。
(先輩、ますますかっこよくなってるなあ……)
私は頭をそっと押さえ、先輩の方を見つめる。
練習中は鬼よりも恐ろしく、平時はとてもクールで優しい先輩の事が、私は大好きだ。
(何とかしてこの思いを伝えたいけど、どうしたらいいのやら)
私は生まれながらの武道家で、恋愛なんて全く縁が無かったから、こういう時にどうしたらいいのかなんて全くわからない。
「…長、部長!」
「ひゃっ!な、何!?」
「真田先輩が稽古をつけて下さるようなので、部長も一緒にいかがですか?」
「あ、うん、わかったわ」
後輩の呼びかけに従い、私はその列に入った。
…
「はあ…」
教室にて、私は窓の外を見つめて盛大なため息をつく。
「なになに、どしたの静?
そんな大きなため息ついたら、幸せがいっぺんに逃げてっちゃうよ?」
「あ、英」
そんな私の様子を見て、友人である杉林 英(スギバヤシ エイ)が話しかけて来た。
「実はね…」
「わかってるって。
どうせ真田先輩の事でしょう?」
「え、何でわかるの!?」
「だって、そう顔に書いてあるんだもん」
「うそ!?」
英に指摘されて、私は急いで鏡を取り出して自分の顔を見る。
「…別に何も書いてないじゃない」
「いや、私が言ったのはそうじゃなくてね…」
今度は英が、盛大なため息をついた。
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