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「ちょっとあなたたち、練習に集中しなさい!」
その正体は、後輩の男子部員たちだった。私はいつも通りに厳しい口調で注意する。
「先輩、それは無理と言うものです」
「はい?」
「正直に申し上げさせて頂きますが、先輩がその様な格好でいては、集中出来るものも集中できません」
そのうちの1人が、私の胸を指差しながらそう言ってくる。
(……あ。
やだ、私ったら)
私の胸は、いつも巻かれているさらしがない上に、谷間が大きく見える状態だった。
「はしたない格好をしていたのは詫びるわ。
でも、こういった格好に目を引かれるのは修行が足りない証拠よ」
「何を仰ってるんですか!
先輩みたいな素敵な人にそういう格好をされたら、誰だって目を引かれますって!」
今度は別の1人が、調子の良い口調でそう言ってくる。
「……だから、そういうのが修行が足りない証拠だって言ってるのよ!」
その後の練習がいつもよりきつくなったのは言うまでもないが、その最中、私は誰だってという言葉が耳に残って仕方が無かった。
……
「誰だって……ね」
下校中、私は後輩に言われた事をまだ考え続けていた。
「私がさっきみたいな格好をすれば真田先輩も……。
いやいや、もしかしたら逆にみっともない女の子だと思われるかもしれないし……」
さっきからこの2つの考えを反復させるばかりで、一向に進展が無い。
「いっその事、真田先輩に直接……」
なんて呟いたその時、私は何者かに見られている感覚を覚えた。
(……どうやらつけられてるみたいね。
学校からかしら?だとしたら私も随分隙だらけだわ)
私の歩く速度にあわせて、その視線の正体であろう人間もついて来ている。
(このまま自宅までつけられる訳には行かないし、あの角で勝負をかけなきゃ)
さすがに素人を殴り飛ばす訳には行かないので、不意打ちで注意をする程度だが、私は素早く角を曲がってそいつが追いかけてくるのを待つ。
「ちょっとあなた!
女の子をつけるなんて趣味が悪い……ってあれ?」
確かにそいつが来たと思ったのに、私が注意した方向には誰もいなかった。
「そんな、まさか……。
気配は確かに感じたのに」
私は動揺を隠せなかったが、その後は特に何も無かったので、気にせずそのまま家に帰った。
……
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