序章:2番目彼氏の出現

9/10
前へ
/30ページ
次へ
「……ほぅ」 先輩に触られた頭を抑えつつ、私はポーっとして立ち尽くしている。 「注意されたって言うのに、その内容が全然入ってないや」 その所作の一つ一つを思い出し、私は前回来た時よりさらに素敵になっていた先輩に思いをはせる。 「なるほど。 あれが真田 剛先輩ですか」 「あ、あなたは……!」 それと入れ違う様にさっきの奴が現れて、私は驚きのあまり後ろに跳び退く。 「先輩が好きになっているのも、ああいう人だったら納得です」 「な、あなた何故それを……!」 「まあ色々ありましてね。 それでは、僕は部活が終わるまでここで見学しているとしましょう」 私の問い詰めるような視線をよそに、そいつは畳の上に正座して部員が稽古をする様子を見ていた。 …… 「さて、早速話してもらおうかしら」 稽古終了後、後片付けをする部員がいるのは気にせずに、私はそいつを問い詰めた。 「わかりました、まずは自己紹介から。 僕は田中 柔(タナカ ジュウ)と申します」 そいつは今朝までとは別人の様に、そう堂々と名乗ってきた。 「そう、田中ね。 で、ストーカーなんてした目的は?」 「ええ、実は先輩にお願いしたい事がありまして」 「お願い?」 「はい。と言うのは、その……」 そこまで言うと、田中はまたうじうじした態度に戻る。 「ああもう、言うならさっさと言いなさいよ!」 「……わかりました、それでは」 田中は一言呟くと、すうっと息を吸って、 「僕を、先輩の2番目の彼氏にして下さい!」 部室中に響き渡る声で、そう告げて来た。 「……は?」 その言っている意味がわからず、私はただポカンとしている。 「だから、僕を先輩の2番目の彼氏に……」 「いやだから、その意味がわからないんだけど」 「あ……、そうですよね。それでは説明させていただきます。 まずはさっきも言った通り、先輩が真田先輩を好きな事を僕は知っています」 「確かにそう言ってたわね、その情報の入手先が気になる所だけど」 「しかし、先輩の性格を考えれば、自分からアプローチするなんて事はとても出来ないでしょう。 そこで、僕が一肌脱ごうと思いまして」 「どういう事?」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加