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「僕はね、人が生きる意味なんてないと思ってるよ」
呆れた。
さぞ立派な答えが返ってくるかと思ってたら。
そんな私の考えを見透かしたかのように、彼が言葉を続けた。
「だってそうだろ?人は生まれてきたから生きるだけだよ。
何か使命があるわけでも何でもないんだ。
人間が死に絶えたとしたって、当の人間がいなければ誰も困らないんだよ。
動物がいなくなっても地球がなくなっても、関係なく時間だけが過ぎていくんだ」
「そんなの、生きる意味以前の問題じゃない」
「そうだね」
彼はあっさり頷いた。
特に私の意見を望んでいる訳ではなさそうなので、好きに喋らせる事にする。
「人って生きる意味を欲しがるだろ?
ただ生きてるだけじゃ不安なんだよ。
不安だから何か意味を見付けたがる。
生まれた意味だとか、生き甲斐とか欲しがるんだよね。
そういうものを持ってないと自分がとても下らない人間に思えてくるんだ。
何もできない、生きる価値のない人間だって。
よく、“生きる価値のない人間なんていない”って言うけど、僕は逆に“生きる価値のある人間なんていない”と思ってるよ。
人は生きてるだけでもう充分生まれた目的を達してるのに、それに気付かないで意味を探すなんて馬鹿げてるよね」
「そう言われるとそういう気もするけど…。
でもそういうもの探したりするのって悪い事じゃないんじゃない?」
「もちろんそうだよ。悪かない。
幸か不幸か僕ら人間は、ただ生きる以上の事を考えられる知能があるんだから」
そう言うと、彼は冷めたコーヒーを一気に飲み干した。
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