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「たださ、意味を探し過ぎるのはいけないと思うんだ」
「どうして?」
「自分を見失うからだよ」
「自分を?」
「そう」
彼がふと目を伏せ、顎を触った。
これは彼が考え事をしてるときの癖。
いつものように何の脈略もなく始めた話題かと思っていたけど、そうではなく、彼には何か言いたい事があるらしい。
「僕がそうだったからね」
「え?」
「僕はずっと生きる意味を探してた。
何か才能や特技がなくちゃ、生きていても仕方ないと思ってたんだ。
それに、親の為とか誰かの為とか、とにかく人の期待に応えないといけないって思い込んでた」
意外な答えだった。
彼は飄々としていて何を考えてるのか分からない、独特な雰囲気を持っている。
何かに焦ったり、慌てたりする事なんてないんじゃないかと思ってた。
でもそう見えなかったのは、彼が自分の心を隠してきたからなのだろうか。
彼と出会ってから、私はずっとそれに気付かずにいたのかと思い、少し悲しくなってしまった。
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